「今の私たちにもっとも大切なのは、グレイシー柔術の伝統を取り戻して全道場に護身術を取り入れること、そして黒帯に茶帯以下の面倒をみてもらい、普通の人たちが暮らしのなかで柔術を活用できるように導き、共同体全体に恩恵をもたらすことです」

「この時点で、次の言葉より先に瞼の奥が熱くなってきた。一族の原則に従って赤帯の授与には異議を唱えたものの、やはり私は涙を流さずにいられなかった。みんなからの愛と支援の表明に心が呑み込まれた」

「私はひと呼吸置いてスピーチを短く切り上げた。いまはこのように感情の昂りを抑えられない状態なので、気持ちを少し消化させてください。ありがとうございました。セミナー終了後、赤帯は金庫にしまい、六十五歳になるまで二度と締めないと誓った」

「自分にその価値を感じていないのに締めるわけにはいかない。赤帯には四十五年が必要という伝統には理由がある。リング上での勝利だけでなく、長年かけて蓄積した知恵と柔術への生涯にわたる献身が認められて初めて締められるものだからだ」

「黒帯になる以前から、チャレンジマッチや道場内大会に至るまで、柔術、サンボ、レスリング、バーリトゥードと生涯を戦いに捧げてきた。何試合戦ったのかと訊かれても、どうやって数えたらいいかわからないほどだ。私にとって数は問題ではない」

「大事なのは、つねに最前線で指揮を執り、柔術代表として全身全霊をかけて戦ってきたことだ。もう戦うことはないかもしれないが、私はこれからもずっと武術家、格闘家でありつづけるだろう」
byヒクソン・グレイシー