「辛抱強い母は、私に心の安らぎをもたらす方法をいつもあれこれと考えてくれた。まずヨガをやらせようとしたが、体位や姿勢がつらく、どこか不自然に感じた」

「そのあと〈超越瞑想〉に連れていかれたが、マントラを唱えていると眠り込んだり注意散漫になってダメだった。あるとき、ヨガに詳しい体操選手が友人にいて、オーランド・カニという人物がいると教えてくれた」

「当時カニは、のちにバイオジムナスティックと呼ばる運動体系を開発中だった。動物の動きと呼吸法を駆使して、生まれながらに備わっている本能を覚醒させるのが彼の目標だった。生徒には知性と理性ではなく、感知力と直観力を備えた人間になってほしいと考えていた」

「オーランド・カニはこう信じていた。現代人が身体から切り離されたのは、感じずに頭で考えるよう教え込まれてきたせいだ。ほとんどの人は頭と体に明確な境界線があると思っているが、じつはそうではない。両者の関係はもっと共生的で複雑だ」

「ベッドから出る、歩く、はしごを上るといった日常の動きを生徒に意識させることで、カニは頭と体のつながりを構築し直そうと考えた。この複雑な単純性は私の胸に響いた。柔術に酷似していたからだ」
byヒクソン・グレイシー