「私は兄に頼んで、家にあった大きなカーペットの中に閉じ込めてもらった。動くことはもちろん、息すら満足にできず、ひどく窮屈だった。棺桶の中に入って生きたまま埋められるとしたら、こんな感じだろうと思った。分かっていることは、上のほうに穴があることと、息をし続けなくてはいけないということだけだ」

「もがいたりしたら、ますます苦しくなる。練習中に味わった最悪の瞬間と、まさに同じような状態だ。それでも私は、十分たつまでは放っておいてくれるように兄に頼んだ。私は思った。『死ぬのなら、まあ、しかたがない。そのときはそのときだ』。ところが十分たって兄に出してもらう頃には、おかしなことに最初に感じたパニックは消えていた」

「さらに何度か繰り返すうちに、それはただのおもしろい遊びになった。死ぬかもしれないという感覚から私は解放された。嫌な悪夢だと思っていた状況に慣れて、むしろ快適だと思えるようになったのだ。その状況を普通のこととして受け入れられるようになった。それ以降、同じ恐怖を味わうことはなくなった」

「いろんなタイプの相手と練習をしたし、ときには激しい稽古ですっかり疲れたあと体格のいい相手にのしかかられて、顔にサンドバッグを載せられたように感じることもあった。息ができなくなったこともあった。それでも、とにかく息をしながら考え続けようとした」

「『くそっ、これで負けたりはしない。ポジションさえ何とかすればいいんだ。待てばいい。そのうち挽回できる。この体勢から抜け出すぞ』。あきらめようとは思わなかった。私の心は、ただ状況を受け止めようとした。そんなことを繰り返すうちに、私はその恐怖をさらに深く知ることができた」

「そして、本当の恐怖は、たいてい心の中にあるのだということを、実感するようになった。恐怖は手で取り除けるようなものではない。私がその恐怖、苦痛に耐え、落ち着きを取り戻し、呼吸をコントロールできるようになったとき、恐怖はなくなっていたのだ」
byヒクソン・グレイシー