「私の道場には看板も駐車場も窓もシャワーもなく、ほとんど人目にすらつなかった。それでも私は一族の王で、当時カリフォルニアはグレイシー柔術の話題で持ちきりだったため、いろんなところから危険な男たちがやってきたし、彼らが裏通りの自動車整備工場の隣にあるみずぼらしい道場を見つけるのに、さほど時間はかからなかった」
「第一世代の生徒の大半は、プロ格闘家の卵や別の格闘技をやってきた者、サーファーあるいは兵士や警官、刑務所の看守、用心棒といった、日常的に肉体を酷使する危険な職業に就いている男たちだった。柔術を学びたい者もいれば腕試しをしたい者もいたが、最終的にはほとんどがグレイシー柔術の熱心な生徒になった」
「私の〈ピコ・アカデミー〉は先入観や偏見を更衣室に置いてこなければならない中立的な空間だった。その類をマットの上に持ち込むことは許さなかった。一族の武術を広めていくうち、私は興味深い人たちに出会い、その多くは生涯の友になって私の人生を豊かにし、私が経験したことのない物事に目を開かせてくれた」
「柔術を学びにくる人たちは、騒動や混乱、恐怖や敵意が渦巻く場へ足を踏み入れることになる。ただ、反目し合って当然の人々が柔術を通じてひとつにまとまることもあった。マリファナの栽培人が警官と仲良くなるのは難しいし、顔を合わせればぎくしゃくした雰囲気にもなるが、彼らがつながり合うのに柔術道場に勝る場所はなかった」
「これほど中立的な環境はほかにないからだ。嫌いこそすれ好意を抱くなどありえないと思っていた相手とも、毎週のように稽古をともにしていれば敬意を抱き合うようになる」
byヒクソン・グレイシー