「自信過剰とは別に、怒りにまかせて戦おうとする者もいる。ロサンゼルスで柔術の大きな大会が開かれるとき、私はかならず足を運びトップの黒帯たちを道場に招く。柔術のトップ選手でMMAファイターでもあるひとりの男がその招きに応じた」
「彼に興味があったのは、すばらしい試合をすることもあれば惨敗を喫することもあったからだ。初めて握手を交わし、目をのぞき込んだとき、情緒のばらつきが感じられた。あっさり私に負かされた彼はそのまま二、三日、道場で稽古をしていった」
「この男のことでいちばん目についたのは、柔術の技術に優れていながら、それをマット外の人生に活かせていなかったことだ。多面的なアプローチで心のバランスを取ろうとせず、それをドラッグの摂取に頼っていた。それではますますメンタルが不安定になる」
「心の強さに欠けるうわべだけの戦士だったわけだ。何年後か、日本で行われたある試合で彼が若いMMAファイターのコーチについていた。試合がはじまり、選手が相手に探りを入れはじめると、こう叫んだ」
「『飛び込んで打ち合え!いくじなし!』人前で罵倒することで選手の積極性を駆り立てようとしたのだ。若い選手はやみくもに攻撃して疲弊し、試合に負けた。当然の結果と言えよう」
byヒクソン・グレイシー