「試合開始。私は飛び込んでクリンチにとらえたが、船木は右のオーバーハンドを打ち込んできた。コーナーに詰め、体を密着させたままパンチと膝の応酬になった。開始九分、船木が私の首をとらえ、ギロチンチョークを仕掛けてきた。そこで船木をグラウンドへ引き込だとき、彼のパンチが私の目を直撃した」
「キャンパスに仰向けになったまま、目が両方とも見えなくなっていた。左の眼窩底を骨折したためだ。頭はしっかりはたらいていて、内なる計器もみな最大値までは上がっておらず、まだ状況に対処できそうだった。これはむしろ、何十年か続けてきた連勝が偶然でなく、練習と方法論の賜物であることを示すチャンスだ。そう前向きにとらえた」
「船木が私に勝つにはノックアウトしかない。今日が最後の日になるなら、それでもいい。生き延びるために懇願したり、魂を売ったりしてはならない。船木はパッと立ち上がり、私の脚を蹴りはじめた。私が立とうとしないのを見て、観客は負傷に気がついたことだろう。船木が私の脚を蹴るたび、日本のファンは歓声をあげた」
「ホイラーが『立て、立て!』と叫んでいたが、私は時間をかけて呼吸を整え、周囲が興奮するなかで気持ちを立て直した。相手の蹴りを吸収しつつ、目を触らないようにした。相手に負傷の程度を悟られてはならない。船木に脚を蹴らせながら、視力が戻ることを願った。まだ視力は戻らない。見えないまま戦うしかない」
「船木は三十回以上私を蹴ったが、照準にとらえながらも私を仕留めにこなかった。それが彼の誤りだった。視力の喪失を受け入れた直後、片方の目が見えてきた。私の蹴りが船木の膝をとらえたおかげで距離ができ、安全に立ち上がることができた。船木が休もうとしているのを感知して攻撃に総力を挙げ、テイクダウンに成功」
「船木は仰向けになったあと、逃げ場をなくしたにもかかわらずあきらめなかった。まさしく真の戦士だ。顔面に二十回以上パンチを浴びせたところで彼は体を半分回した。そして、チョークで首を絞められてもタップせず、そのまま失神した」
byヒクソン・グレイシー