「いろいろな場所へ赴いて集中講座を開くのは前から好きだった。刺激的な時間になるからだ。慣れない環境に落下傘降下して、初めて会う生徒たちをその場で理解しなければならない。柔術のセミナーを開いて教えよう。そう決めると、世界各地の友人や生徒に連絡を取って段取りをつけた。大事なのは最初からたくさんやりすぎないことだ」
「ひとつひとつのセミナーに全力を注ぎ、次のセミナーまでしっかり充電時間を確保しよう。それでもすぐにヨーロッパからオーストラリアまで世界のあちこちから要請があり、地位も職業も能力もさまざまな生徒を教えはじめた。セミナー開催について回る問題に、自己主張の強い人たちへの対処があった」
「とくに格闘の世界には、自分をアピールし自分が何者かを伝えてくる人間がいる。セミナーを開くたび、私は受講生のことをざっと調査した。私のファンで友好的な人もいれば、柔術に興味はあるがまだその効果に半信半疑で、態度を決めかねている人もいる。私に挑戦して倒して名を上げようと、敵意を持ってやってくる人もいる」
「生徒の大多数はきわめて礼儀正しく、学ぶ機会を得られたことに感謝していた。謙虚で無邪気で好奇心の強い人は新しい物事に心を開いていて教えやすい。いっぽうで、何十年も間違ったことをしてきた人がそこから学び直せるように教えることは難しい。それでも、やる気があれば心と体はついてくる。親切になれず、優しくもできないときがままある」
「そんなときは、相手の腕を伸ばしたり首を圧迫したりして自分の正しさを証明する必要が出てくる。大きなエゴと頑なな心は、手をく携えてやってくるものだ。生徒の殻が硬すぎて、教えるためにはまずその殻を割らなければいけないこともある。それには私の教えが有効であることを、口ではなく行動で見せる必要があった」
byヒクソン・グレイシー