「パリで何百人か集めて大規模なセミナーを開いたこともあった。フランスでは柔道が大人気で、会場には歴戦を物語る鼻の曲がった男やカリフラワーのように耳のわいた男たちがたくさんいた。そのなかに、三時間のセミナー中いちども笑わなかった大柄な柔道家がひとりいた」
「いつもは全員とスパーリングするのだが、このときは人数が多かったのでそうもいかない。『スパーリングをしたい人は』と訊くと、みんなが手を挙げた。私は見た目から強そうな三十人を選んだ。大柄な柔道家もその中に入っていたが、彼は最後に取っておいた」
「戦いたくてうずうずしていたらしく、この男は直前の相手がタップしおわる前にマットに上がってきた。私はアンバランスな投げで餌をまき、男がそれを防ごうと伸ばした腕をアームロックにとらえた。十秒たらずでタップした男は怒り心頭に発したようすだった」
「もう一回と要求してきたが、私は座るよう命じた。セミナーが終了してホテルへ戻る途中、フランスのマネジャーが私を見て、『ヒクソン、誰を選べばいいか、なぜわかるんだ』と訊く。『どんなに縞模様を隠そうとしても、虎のにおいはわかるのさ』と私は答えた」
「フランス人は笑いながら、列の大柄な柔道家はオリンピックの出場経験があり、この一年、自分が相手になれば柔術家など無力だと豪語していたのだと教えてくれた。世の中にはかならずこういう人間がいるが、大事なのは、彼らのエゴや傲慢さに同じ態度では応えないことだ」
byヒクソン・グレイシー