「なぜ父が偉大な格闘家になったのか。私がそのことでどんな影響を受けたのか。そう聞かれたも、私は答えにつまる。父は本当に変わった人で、完全に別の世界から来たようなユニークな男だった」
「祖父については、学者であるとか政治家であるとか、いろんなことが言い伝えられているようだが私の印象では、決して経済的に豊かな家庭ではなかった。おそらく、父の子供時代にはすでに蓄えは底をつき、生活は厳しかったのではないだろうか。父や兄の話を聞いた限りでは、質素な暮らしをしていたようだ」
「父は格闘技の世界に入るまで、そのときどきで使い走りや配達人など、低賃金の仕事をしていた。スコットランド人の血筋だということも関係があるかもしれない。スコットランド人は倹約家なのだそうだ。ちょっとした小遣いを稼ぐために、父は安い賃金で長時間働いたという」
「誰も学校へ行けとは言わなかったから、教育を受けたのは小学生三年生までだ。しかし、そこで学ぶことをやめたわけではなかった。学校へ行かなくなってからも、別のやり方で学び続けたのだ。あるとき父は格闘技を習い始める」
「すると、他のことには目もくれず誰よりも情熱を注ぎ、やがて大きな成功を収めることになった。なぜそうなったか?やはり確信を持って答えることはできない。しかし、父には輝く才能があったからだと、私には思える。家族だけに通じるジョークに、『エリオ・グレイシーの柔術は、アインシュタインの物理学だ』というものがある」
「とにかく説明が不可能なのだ。いったいどうやって問題の解決方法を思いつくのか。どこからその並外れた創造力が生まれてくるのか。そんなことのすべてに説明がつかなかった。まぶしいほどの才能があったというしかない」
byヒクソン・グレイシー