「私が、自分の子供時代を今も強く意識しているのは、その頃の家庭環境が独特だったからだろう。私が生まれたとき、父は四十五歳。比較的年を取ってからの子供で、兄たちは私より十ばかり年が離れていた。三人の兄はそれぞれ、私より九歳、十歳、十一歳年上だ」
「その後父は二度目の結婚をして六人の子供を授かるが、十年ほどのあいだ、小さな子供は私一人だけだった。家の中で誰かと競うことがほとんどなかったのはそのせいだ。また、兄と話をしたり、兄たちの会話を横で聞いたりして私は言葉を覚えた」
「だから外で同じぐらいの友達と遊んでいても、何となく居心地が悪く、いつも年上の子を探しては一緒に遊ぼうとした。そのうち、街で年上の少年グループに目をかけてもらえるようになったときは、本当に嬉しかった」
「そしていつしか、同じ年頃の少年たちのあいだでは、自然とリーダー的な存在になり、あちこちのグループに顔がきく自分には、世の中を渡っていける力があるような気がした。その頃の私にとって、街は人生そのものだった。私はほとんどの時間を街か海辺で過ごし、あとはときどき格闘技の教室でトレーニングをする」
「つまり学校へはほとんど行かず、思い出してみると、私は本当に勉強をしなかった。長い年月がたって親になると、自分の子供と同じように育てるわけにはいかなかった。世の中は大きく変わっており、もうそういう時代ではなかったのだ」
「私は子供とのあいだに、お互いを尊重できるおおらかな関係をつくり、世の中のことをきちんと教えたいと思った。もしそれができないなら、少なくとも子供が自分で理解できるようにしたかった」
byヒクソン・グレイシー