「もうひとり、私に大きな影響を与えたのは母だった。家庭の中で、女性にはまったく力がないこの時代だった。命令するのは男だ。もし私が『母さん、今日は学校に行きたくない』と言えば、『じゃあ、父さんに聞いてらっしゃい』」
「一家のほかの女性もみんな同じだった。当時は、姉妹の立場も弱いものだった。何の力もなく、何も言えなかった。父はかなり男っぽいタイプだったが、それはグレイシー家特有のものというわけではない」
「古い時代のブラジルやヨーロッパなどラテン系民族の特徴で、それは日本も同じだろう。母親、姉妹を問わず、女性には、名誉も権限もなく、ただ我慢するしかなかったのだ。育ち盛りの少年だった私にとって、それは案外都合がよかった」
「父をどう喜ばせるかということだけ考えていればよかったからだ。しかし悲しい一面もあった。しょっちゅう物陰で一人泣いている母に気づき、慰めたい、何があったのか理解してあげたいと思っても、母は何も言おうとはしない。母がどんなに傷ついていたのか、そのうち私にも分かるようになった」
「女性だからというだけで、意見を言うことも、気持ちを表すことも許されない生活をしていたのだ。私は、自分が大きくなったら、家の中で見てきたことを繰り返したりはしないと考えていた」
byヒクソン・グレイシー