「日本は西洋に開国を迫られる。西洋人が日本を訪れて、あれこれと伝統的な習慣を調べ始めたとに、日本人は最も大切なものを隠したと思われる。その代わりに表に出たのが、スポーツとしての柔道や合気道だ。日本人は、何よりも価値のある情報は渡さなかった」
「最も実効性の高い武器ーーー日本の格闘技を外国人に手渡したくなかったのだ。確かに私が日本人でも、敵に切り札を見せたくはないし、手の内をすべて明かすようなまねはしないだろう。そして柔術は、格闘技ではなくスポーツとして普及し、そのまま定着するように見えた」
「しかし、やがてある日本人の一派が、そのスポーツを携えてたどりついたのが、ブラジルという最もワイルドな無法地帯だったのだ。われわれ一族は、その形式にとらわれるわけにはいかなかった。ブラジルという国は、いつ命がけの闘いが起こってもおかしくないところだからだ」
「完全なノールールの試合になるかもしれない。試合に来る相手が『ギ』(道着)を着てくるかどうかも分からなければ、試合は予定なしに始まり、ルールすらない。フェアな闘いなどとうてい期待できるはずもなく、噛み付いたり指で目を突いてきたりする奴もいる……」
「そうした予測できない闘いをするという厳しい経験を積み重ね、激しい攻撃に対応していくしかなかった。五十年もの年月をかけて、われわれはブラジルというジャングルの中で、命を賭けて、グレイシー柔術の普及のために闘ってきたのだ」
byヒクソン・グレイシー