
「私が弟のホイラーと一緒にドライブをしていたときのことだった。ホイラーは明るい男で、父と同じぐらいで私よりずっと小さく、体重は六十五キロほどだった。当然その小柄な体のせいで、道で知らない人とぶつかると、『おい、邪魔だ、どけ!』と言われることが多かった」

「同じ男と目が合ったのが私なら、からんでくる者は少なかった。私は優しげな男に見えないし、弱そうでもない。外見だけの違いなのだが、突っかかられるのはいつも弟のほうで、何かというとすぐ喧嘩をした」

「いつも気を張りつめ、不安定で、すぐに強いところを見せようとした。ドライブに話を戻そう。リオは渋滞がひどく、私は弟に話しかけて気を紛らわせたりしているうちに、うっかりタクシーの進路に割り込んでしまった」

「タクシーはすぐに追いかけてきて、運転手が『おい、ふざけんなよ、このバカやろう!』とまくし立てた。助手席に座っていた弟の向こう側に横付けしたタクシーに向かって、私はこう呼びかけた。『なあ、俺が悪かったよ。すまなかった。そう怒らないでくれ。じゃあな』。男はしばらく追ってきていたが、やがて行ってしまった」

「『ヒクソン、バカ呼ばわりされて、よく何もしないでいられたな』。そう言う弟に対し、『あんな野郎を痛めつけるつもりかい?よせよ、あれはかわいそうな男だ。毎日こんな渋滞の中を走ってるんだ。放っておこうぜ、ただの弱虫だ』。そう言って私は、冷静にドライブを続けたのだった」
byヒクソン・グレイシー
