
「私がブラジルで柔術を教えている人の中に裁判官がいる。初めて会ったとき、その人は四十代で、すでに裁判官の仕事についており、当時十八歳だった私がプライベートレッスンを担当することになった」

「彼は、特に負けず嫌いの野心家というわけでなく、ただ楽しみのために道場に通っていたのだが、時がたつうちに、青帯、紫帯、と昇格した。五年ほどたったある日、稽古を終えて稽古場の脇で休憩していると、その人が言った」

「『ところでヒクソン、柔術は私の人生を変えたよ』。私が『どういうことですか?』と聞くと、彼はこう答えた。『実はね、裁判官になってからもう十五年ほどたつ。この仕事についてからというもの、私は少なくとも一日に二十から三十件の事件を担当してきた」

「毎日開廷を宣言して、判決を述べる。何年も何年も、私の前には起訴ファイルが積まれていて、それが当たり前だと思っていた。ところが先日、判決を述べて閉廷を告げたとき、ふと机を見るとそれがきれいに片付いていたんだ。今までと違う」

「どうしてこんなに整理されているんだろう?担当件数も何もかも同じなのに…… 。そう、変わったのは自分だったんだ。心の中に迷いがなくなり、何が正しくて何が間違っているのかが分かっている。意見を言うとき、判決を言うときに、ためらうことのない自信がある」

「そして私はそれが柔術のおかげだと気づいたんだよ』。家や職場での行動を、柔術が変えることもある。柔術で別の人間になれる。それが分かる興味深い話だった。視野が最大限に広がり、行動を起こすのが簡単になる。堂々と意見が言えるようになる。人付き合いがうまくいくようになる」

「この裁判官は、プロの格闘家ではなかったし、試合にさえ出たことがない。いつもそばに銃を持ったガードマンを連れていて、闘いに備えて練習しているわけではなかった。結局、彼は柔術を通じて自分に自信が持てるようになったということだ。それは私にとって、思いがけない発見だった」
byヒクソン・グレイシー
