「ある日、いつもように先生が指示を出した。『動物の動きを始めたら、目は見ているものを素通りするはずだ。何の分析もしてはいけない。ここに誰かがいることは分かる』」

「『でも、いくつなのか、若いのか、年寄りなのかは、何も分からない。動物のように、見るだけだ。何かが存在することは分かっても、分析しない。動物だから、何の感情もなく、ただ性質を感じるだけだ』」

「そのとき電話がかかってきた。先生は『いいから、そのまま続けて』と言い残して出て行った。私はそれを続けた。やり遂げたと感じたとき、私は窓枠に乗っている自分に気づいた」

「『何だって窓枠にいるんだ』と思い、部屋を見渡すと、先生が泣いていた。私は一時間十五分もそんな状態だったのだという。まったく意識がないままで」

「『ここまでやった人は初めてだ。完璧に本質をつかんだな』。このとき私は気づいた。その独特な動きをきっかけにして、心を完全に無にする力を手に入れた、と」
byヒクソン・グレイシー