エリオ・グレイシーは口先だけの男ではなかった

「エリオ・グレイシーは口先だけの男ではなかった。私が会ったなかでいちばん勇敢な男だった。一九四七年、彼とカーロスはアブロス諸島近くの大海原を船で旅していた。日が沈みはじめたころ、『船外に人がいる!』と誰かが叫んだ」

「船長が船を止め、荒れた海に乗組員が救命ボートを下ろした。ボートは溺れかけた男のそばにたどり着いたものの、引き揚げようとすれば転覆の危険がある。何度か試みたあと乗組員は怖くなり、オールを漕いで船に戻りはじめ、男を見捨てようとした」

「父と伯父は甲板からこの悲劇を見守っていて、救命ボートが戻ってくるのを見た父が伯父を見て言った。『クソっ!死なせる気か!』エリオは服を脱ぎ捨てて、下着のまま海へ飛び込み、救命ボートの横まで来ると、『戻れ!』と叫んだ。ボートはUターンし、男のところへ引き返しはじめた」

「ボートへ引き上げられるように、父が男を水中から持ち上げた。暗くなってきて、乗組員のひとりがうろたえはじめ、『船に帰れなくなる!』と言った。パニックが広がらないうちに、父は乗組員のオールを握って『さあ、漕ぐぞ、船に戻るんだ!』と言った」

「毅然とした態度と自信が乗組員たちを落ち着かせた。船に戻り着いたときは、海の状況が悪化していて、救命ボートを甲板へ引き上げるのに一時間近くかかったという。父が自信に満ちた強い気持ちを見せていなければ、燎原の火のようにパニックが広がっていただろう」
byヒクソン・グレイシー


