「私がレスリングとサンボに興味を失っていったのは、こうした恣意的なルール以外にもうひとつ理由があった。どちらの競技も、知性や技より力とスピードに長じたフィジカル優先の格闘家に自分をつくり変える必要があったからだ。ホーウスはレスリングを続けてブラジル代表チームを作ろうとしていたが、だから私はバーリトゥードへ向かった」
「柔術競技でも、私があらたに証明できることはほとんどなかった。大会で圧倒的な強さを見せるようになった私がマットに上がると、レフェリーの『はじめ!』と同時に観客たちが『十、九、八、七、六……』と大声でカウントをはじめるようになった。十数秒以内にタップさせないと、ふたたびカウントがはじまる」
「黒帯になってから試合を終わらせるのに五分以上かけたのは、弟ホイラーがカーウソンのところの生徒と戦い判定で勝利を奪われたあとに行われた試合だけだった。無差別級決勝の相手で二四〇ポンド〔一〇九キロ〕のヘビー級だった。ホイラーの試合判定で怒り心頭に発していた私は相手を存分に苦しめてやろうと考えた」
「マットに倒すやマウントを取り、ひたすら耐えがたい圧力をかけつづけた。実際の相手と戦っているのではなく、ホイラーから勝利を奪ったカーウソンを罰しようとしていたのだ。私の行動はすべてエゴと怒りに衝き動かされていた。感情的になるあまり、技の正確さと芸術性を失い、自分で自分の足を引っ張っていた」
「氷上にいるかのように空回りして埒が明かない。ホーウスが『八分経過!』と叫ぶまで、やみくもに相手を罰していた。八分は長すぎる。そこではっと我に返り、自分が腹立たしくなった。ここまでだ。そしてあっさり相手を極めた」
「こんな戦いは今後二度としてはならないと思った。理性より感情を優先していたからだ。誰も気づいていなかったが、この日私は大切なことを学んだ。感情的に戦うのは間違っている。正常な判断力を失ってしまうからだ」
byヒクソン・グレイシー