「今日、MMAファンの九八パーセントは金網〔ケージ〕に囲まれた戦いの場に足を踏み入れたことなどないし、マットに上がったことさえないはずだ。鼻骨を折ったり靱帯を切ったりという体験とも無縁だろう。彼らは暴力の現実を知らず、頭の中だけで妄想している。MMAは画面で見る別世界にすぎない」
「おそらくは、いまのUFCのオクタゴン〔八角形のリング〕がローマの闘技場〔コロッセオ〕に等しいからだろう。つまり、血と暴力と激情にまみれた空間なのだ。それでもUFCの第二回大会で、私にとって興味深いことがひとつ起きた」
「連覇を果たしたホイスの試合後のインタビューに同行したとき、彼は私に感謝の言葉を述べ、兄のヒクソンは自分より十倍強いと公言したのだ。とつぜん人々は私に興味を持ったーーーとりわけ、日本人が。武術の歴史とその文化ゆえに、私はずっと日本で戦いたいと思っていた」
「アメリカ人とちがって彼らは格闘を理解している。私の生徒でMMA初期ファイター、エリック・パーソン〔ブラジリアン柔術黒帯。九六年、修斗ライトヘビー級王者に〕から中村頼永という人物を紹介された。彼は日本の総合格闘技黎明期の団体〈修斗〉で指導員をしていた。UFCのずっと以前から修斗はオープンフィンガーグローブを着用し、ラウンド制を採用して、体重別に階級を分けて試合を行い、洗練された観客がついていた」
「ジャッキー・チェンとプロレスで育ってきたアメリカMMAの観衆とは異なり、試合がグラウンドに移行したときでも日本の観衆はテニスの客席のように、『おお』とどよめく。世界じゅう探してもファイターがこれほど大きな尊敬を受ける場所はない」
byヒクソン・グレイシー