「兄弟全員がファイターとなれば、喧嘩や争いはつきものだ。外部の人間には結束して対抗したが、家族の間にはつねに緊張があり、ときにそれが沸騰した。エリオは兄の命令に絶対的に従ったが、”赤い猫″の異名を取ったジョルジ・グレイシーには彼なりの考えがあった」
「ジョルジは優れた格闘家で、兄弟でいちばん運動神経に恵まれていた。しかし自由奔放なボヘミアンで、ギャンブルやパーティーを好み、厳格な性格の長兄カーロスと対立することがよくあった。結局、彼ら兄弟はみな別々の道を歩むことになり、いいときも悪いときも最後までカーロスについていったのはエリオだけだった」
「その関係の濃密さから、ふたりは”指と爪″のようだと言われた。父は一族最高のアスリートだったわけではない。子どものころは医者から『めまいを起こすから運動はしないように』と言われたくらい病弱だった。口癖のように『人は生まれるときと死ぬときは弱いもの。強くなったのは柔術のおかげだ』と言っていた」
「エリオには力に頼る選択肢がなかったため、てこの原理と鋭い感覚、そしてタイミングで力のなさを補わざるを得なかった。こう言うと大げさに思えるかもしれないが、柔術にとってのエリオ・グレイシーは物理学にとってのアルバート・シュタインに匹敵する存在だった」
「ガードと呼ばれる防御と攻撃を兼ねたポジションをさらに進化させ、背中をつけたまま相手を股に挟んで戦うことで、格闘技を大きく進化させた。このポジションはもともと柔道にも存在したが、父は体格に恵まれず、バーリトゥードは暴力性が高かったため、そこに改良と近代化をほどこしたのだ」
byヒクソン・グレイシー