「ここで『読み取る』とはどういうことなのか説明しておきたい。たとえば、試合中に相手をつかんだとしよう。練習のときの経験から分かっているのは、腕を回してホールドし、基本的には相手がミスをするまで待つのが正解だということだ」
「ただし問題がある。単に練習してきたことをやるだけでは、うまくいかないかもしれない。つまり、ひたすら『ホールド』していても、相手がミスをしないこともあるということだ。ミスを誘うには、新しいエネルギーを生み出さなくてはいけない」
「父は強靭な肉体の持ち主というわけではなかった。『試合に勝ちたければ、まずは負けないことだ』と教えてくれたほどだ。父の教えはすべてこの考え方が基本にあり、そして私は負けない男になった。しかしそれは私の目指す道程の半分にすぎない」
「ただ負けないだけの人間になりたいとは思わなかった。勝てる人間になりたかった。今の私には、ディフェンスに必要なテクニックについて完璧な知識がある。ただし、それだけでは最強の敵を倒すことはできない。他にも、父からは、ディフェンスの能力だけでなく、決してあきらめないことや、臨機応変に動くことが大切だということも教えられた」
「しかし、父よりも体が強かった私は、それでもまだ満足できず、ある意味では父以上のことができるはずたと信じていたのだ。私は父の教えをすべて吸収し、自分の能力として身につけた。それでも、自分より二、三十キロも重い相手と闘っていたのだから、くだらないミスをしたりエネルギーを無駄に使ったりする余裕はなかった」
「勝つためには、教えられた基本だけでなく、そこから、重要な何かを『読み取る』必要があった。防御するだけでなく、勝利に持ち込めるような、自分だけの何かが必要だった。それは、私が一人で踏み込んで開拓しなくてはならない、大きな未知の領域だった」
byヒクソン・グレイシー