「一九九二年の時点で私の道場は繁盛していて、生徒たちは劇的に腕を上げていた。いちばん早く柔術を身につけたのは、大挙してやってきたレスラーたちだ。仰向けに寝て戦うことに慣れるのは大変だったが、グラウンドを理解していたし、驚くほど意欲旺盛だった」
「昔からの友人ペドロ・サワーの、道場でセミナーを開くためにユタ州を訪れたとき、当時同州でレスリングのコーチをしていたオリンピック金メダリストのマーク・シュルツを紹介された。腰が低く気さくな人柄で、私と練習したいと申し出てくれて感銘を受けた。アメリカ最高の誉を受けたアマレスラーに、私と練習することで得るものがあるのだろうか」
「危険を承知で新しい格闘技に身を投じるくらい、心が広く勇敢な男だった。あいさつをすませると、バーリトゥードがいいかと尋ねたが、グラップリングでいいと言って三角絞めにとらえた。思ったより速かったな、と思った。タップしたときシュルツは動転していた。何をされたかわからなかったからだ」
「仰向けの状態から脚で頸動脈を絞められるーーー当時のレスラーには想像外のことだった。二度目、勉強熱心なシュルツは私をクレイドル・ホールドにとらえ、首をねじってきた。苦しい体勢だったが、レスリングの試合は五分しかないため、こういう爆発的なペースをいつまでも維持できるわけがない」
「サブミッションのかけ方もまだ知らなかったし、圧力だけで私がタップすることはない。十分ほどかけて彼を料理した。疲れてきたところを見計らってバックに回り、チョークでタップさせたのだ。世界を二度制したオリンピック金メダリストは負けることに慣れていない。一度目以上に動転しているマーク・シュルツに私は言った」
「あなたは偉大なチャンピオンだ、これがレスリングなら結果はちがっただろう。私のルールではなくあなたのルールで戦うことになるからだ。彼はうなずいて、わかったと言った。結局シュルツは柔術に夢中になった。ペドロ・サワーのところで練習を積んで黒帯を取得し、UFCでも戦い、柔術を代表する偉大な選手になった。マーク・シュルツの誠実で謙虚な人柄を私は尊敬してやまない」
byヒクソン・グレイシー