
「ある日の夕方、ブラジル最高の高波が押し寄せるサクアレマでひとりサーフィンに興じていたときのことだ。日が沈みかけていたが、もう一本、波をつかまえることにした。パドリングで沖へ戻っていくと、お化けセットというべきめったに来ない大きな波が頭上で砕けた」
「片方の足首のボードにつなぐリーシュがちぎれ、そのとき使っていたサーフボードとは永遠の別れとなった。激流に呑まれ海へ引きずり込まれていく。流れが強すぎて逆らえないと悟ったところでアドレナリンが湧き出してきて、正気に返った」
「ここでパニックに陥って対応を誤れば死を免れない。激流から逃れるためには、必要なら何時間でも泳げるようなペースで岸と平行に移動する必要があった。海岸沿いに立つ教会の明かりを目印に、水をかくことと呼吸することに集中した」
「二時間後、ふらつく足で陸に上がったときに感じたのは、生還の喜びだけではない。頭と忍耐力をフル回転させて生き延びた自分への誇りだ。戦いに勝つこと、野生馬を乗りこなすこと、狂暴な犬を手なずけることなども比較にならない」
「あのときの泳ぎは私の人生でも飛び抜けて恐ろしい経験だった。相手は自然だったからだ。運だけでは岸に戻れない。原始的な恐怖に立ち向かって、私は勝利した。翌日ふたたびサクアレマへ戻るとパドリングで沖へ漕ぎ出し、いつものようにいい波を何本がつかまえた」
byヒクソン・グレイシー
