「エリオが戦ったのはお金や名声のためでなく、グレイシー一族の名誉のためだった。一九五五年、格闘技戦から引退していた四十一歳の彼に″黒豹”の異名を取るヴァルデマー・サンタナが挑戦した」
「筋骨隆々のアフリカ系ブラジル人は父より十六歳若く、二七キロ重かった。サンタナはもともと父の教え子で、私のいとこカーウソン〔カーロス・グレイシーの長男〕の友人であり、トレーニングパートナーでもあった。柔術道場でロッカールーム係もしていたがエリオと口論の末にたもとを分かっていた」
「父とサンタナは時間無制限のバーリトゥード戦に合意した。リオのYMCAに集まった大観衆が三時間四十八分にわたるふたりの戦いを見守った。最後にサンタナは顔への蹴りで父を失神させた」
「五一年の木村戦と同様、エリオは正々堂々の試合で負けたことを認めたが、最後まであきらめず、心が折れたことがない点を誇りにしていた。グレイシー一族にとって、これは非常に大切な名誉なのだ。幼いころから、恥ずかしいのは負けることではなく戦いを投げ出すことと叩き込まれてきた」
「翌年、カーウソンがマラカナンジーニョ体育館でサンタナを破って父の敵を取り、誰もが認める一族の王者、ブラジルの新しいスポーツヒーローになった」
byヒクソン・グレイシー